2024.11.30
防災・防犯協議会事務局
はじめに
パークシティ金沢八景震災マニュアルは、東日本大震災の翌年2012年に制定され、2023年には以下の点ほかを見直した居住者向け簡易版が制定されました。
・避難先を在宅避難を中心とする
・地震発生後の出火・漏水防止、排水禁止
・家具転倒防止
今回の震災マニュアルの改正は、基本的にはこの居住者向け簡易版にMew No.137(2023年春号)に掲載した解説を添えた形式に変更しました。それとともに、事前の備え、すなわち地震によって生じる住戸内リスクの低減策と、長期化しうる在宅避難生活への備えにより重点を置いた構成としました。併せて、マニュアルを「第一編 居住者向け」と「第二編 対策本部メンバー向け」に再編しています(入手は末尾の※を参照)。
以下、主なポイントを説明します。
1.想定震度と家具の転倒防止とガラス飛散防止(マニュアルp.6, 11~13)
地震ハザードマップでの想定震度は「6強」です。より揺れが大きい高層階での震度については、「地上で震度5強の揺れに対し、10階で震度7になる。」という資料があります(出典1)。では、地上で「震度6強」だと10階で「震度8」になるのかというと、そもそも7を超える震度は規定されていません。それはこれまで観測されていないからというのが主な理由ですが……。
もうひとつ心配なのは、当パークシティでは家具の転倒防止が難しい場所が多く存在するという点です(Mew No,137号を参照)。
そこで横浜市家具転倒防止対策助成事業(出典2)を実施している横浜市建築士事務所協会に相談しました。ダクト下の場合は突っ張り棒とダクトの間に板を差し込む、コンクリートへの接着は溶剤の匂いの問題もあるため、震度7の性能試験をクリアーした粘着式転倒防止器具と他の転倒防止器具を組み合わせる等の助言を頂き、マニュアルに反映させました。
これで転倒を完全に防止できなくとも、転倒する家具から逃れる時間は稼げるかもしれません。十分な固定が難しい家具はリビングや寝室に置かずにタンス専用の部屋に集めましょう。
東日本大震災ではそれほど被害を受けなかった皆さん、気象庁が発表した精査後の震度資料(出典3)の隣接区から類推したところ、その時の震度はおそらく「5弱」です。それに対して「震度6」は加速度で比較すると約3倍になります。突っ張り棒のみに頼っている方はぜひ新マニュアルをお読みください。
なぜ転倒防止が重要か? それは自治会役員が安否確認する際、家具の下敷きになって助けを求める声が聞き取れなければ、負傷者を何日も放置しかねないからです。
これによって家具が激しく移動して配線が損傷し、停電から回復する際に起こりうる「通電火災」のリスクも減らせます。
出典1:あなたは何階に住んでいますか? 1階は震度5強でも10階では震度7!? 高層ビルの危険を実験で検証
出典2:横浜市 家具転倒防止対策
それに付け加えて、今回の改正ではガラスの飛散防止をお薦めしています。もし地震が夜間に発生して停電した場合、ガラスで足を怪我することを避けるのは困難です。
東日本大震災では上層階で吊り下げ型蛍光灯が激しく揺れて蛍光灯の破片が床に散乱した例があります。天井貼付け型への買い替えを考えましょう。
併せて、食器棚・飾り棚の前面ガラス、並びに、バルコニーに面したガラス戸にガラス飛散防止フィルムを貼ることをお薦めします。後者は台風直撃時の風害対策にもなります。
これまでのガラス飛散防止フィルムはかなりのコツと経験が必要でしたが、最近は貼り直しできるタイプが販売されています。
2.津波・内水氾濫と停電・管理センター機能の喪失(マニュアルp.7, 15~16)
当パークシティ建設当時の横浜市の津波ハザードマップ(慶長型地震)では津波は当パークシティに到達しませんでした。その後神奈川県の津波ハザードマップが改訂され、さらに内水浸水(下水道からの氾濫)ハザードマップが作成された結果、当パークシティ内でも場所によっては30cm~1mの浸水が想定されることになりました。
すなわち、当パークシティの建設当時は津波や内水浸水による被害を十分に想定していなかった可能性があります。
マップでは浸水が30cm~1mのエリアと1cm~30cmのエリアが混在しており、1階の住戸が床上浸水するかどうかは微妙です。
それよりはまず各階段入口の床上にあるコンセントが30cm強の津波・内水浸水でショートし漏電ブレーカーが落ちます。コンセントが乾燥するまで何日か待てば応急的に復旧できますが……。
また、床下の高さがわずかしかない管理センター1階の火災監視盤・放送盤が浸水し、火災監視と全住戸への一斉放送ができなくなりそうです。
各棟の主幹盤室も床下の高さがわずかしかなく、インターネット回線機器が浸水します。
さらに問題なのは、津波の到達時間です。津波ハザードマップの元となった技術資料を調べたところ、房総半島南端の野島崎付近を震源とする元禄関東地震若しくはそれと連動する地震モデルの場合、津波がわずか「1分」で平潟湾の海岸に到達することが分かりました(神奈川県県土整備局河川下水道部港湾課なぎさグループに確認済み。下表1を参照)。
これでは管理センターの浸水防止どころではなく、まず管理センター所員の2階への避難が最優先です。
下表1のとおり、平潟湾への津波の到達時間と当パークシティ内の浸水深さは、震源地がどこかによって大きく異なります。地震速報で震源地が「相模湾から野島崎沖にかけての海域」となっている場合は要注意です。
表1:津波ハザードマップで想定された5つの地震モデル
地震タイプ名 |
最大津波高さ |
平潟湾までの到達時間 |
当パークシティ内の浸水深さ | 津波浸水予想図 |
相模トラフ沿いの海溝型地震(西側) |
3.4m | 30分 | なし | 当パークシティに津波は到達しない |
相模トラフ沿いの海溝型地震(中央) |
2.9m | 110分 | 0.1~1m | 当パークシティに津波が到達する |
元禄関東地震(震源地:房総半島南端の野島崎付近) |
2.8m | 1分 | 0.1~1m | 当パークシティに津波が到達する。当相模トラフ沿いM8.1 房総半島南端の野島崎付近を震源とする。 |
元禄関東地震と国府津-松田断層帯地震の連動地震 |
2.8m | 1分 | 0.1~1m | 当パークシティに津波が到達する。 |
慶長型地震(旧ハザードマップの想定) |
3.9m | 75分 | なし | 当パークシティに津波は到達しない。 |
3.避難(マニュアルp.8, 15~17,)
同じくマップによると、旧マニュアルで「いっとき集合場所」としていた泥亀一丁目公園多目的広場(旧「三井グラウンド」)、同じく避難先としていた「地域防災拠点」(八景小学校)とそこへの避難経路(宮川沿い)も浸水深さが1m~2mとなっています。
津波の心配がない場合であっても、防災スピーカーの音声が届かない泥亀一丁目公園に集合したのでは、非常電源で情報収集しやすい管理センターとの往復に時間と人手がかかり、ベストな場所とは言えません。
これが在宅避難又は階段の上の方への垂直避難を中心とすることになった第一の理由です。もちろん、床上浸水や延焼の恐れがある居住者は安全が確保される階段の上方に避難する必要があります。
4.地震発生後の被害拡大防止(マニュアルp.18~20)
家族の身の安全が確認出来たら、次は火災・漏水・汚染水拡大による被害拡大の防止です。
ガスは震度5相当以上の揺れで自動的にストップします。もし調理中に地震が起きた時、火を消すことよりも、ヤケドや怪我のリスクが高い台所から直ちに逃げることが優先されます。
火事は地震発生直後だけでなく、停電から回復した時、配線の損傷個所やヒーターと可燃物の接触箇所から出火する「通電火災」にも注意する必要があります(出典4)。
もし水道管や排水管がどこかで壊れていることに気付かず、水道や水洗トイレを使い続けると被害が拡大します。
特にトイレは地震発生後にすぐ必要となる設備です。当パークシティの排水管は耐震仕様ではないため、それを点検する専門家を大震災時に確保することは難しいでしょう。たとえ無事だったとしてもそれが確認されまでかなりの日数が掛かることがあり得ます。地震発生後はすぐに自宅トイレにポリ袋をセットし、備蓄した防臭BOS袋、凝固剤、消臭剤を使って用を足せる状態を整えるようにしましょう。
5.緊急連絡方法と初期対応(マニュアルp.21~22, 28~40)
当パークシティでは、停電すると非常用発電機が自動起動し、管理センターの電気が維持されるため、津波情報や火災監視情報に基づいて避難誘導や危険回避行動を対策本部から全戸に一斉放送することができます。これは、エレベータが使えない時に高層階に住む高齢者にとって大きなメリットです。
もし火災警報が鳴ったら管理センターからインターホンで誤報でないことを問い合わせのうえ、一斉放送で火災発生場所をその棟の全住民に知らせ、避難と初期消火への協力を求めることができます。
防音性のよい当パークシティで「火事だー」と大声を出しても、はたして近隣住民に声が届くでしょうか?
この便利な機能が津波によって失われたらどうなるでしょう? 一人暮らしの世帯で火災が発生したら、居住者自身で初期消火することと近所に火災発生を伝えることの2つを同時に行うことができるでしょうか?
ここで各住戸から管理センターに緊急連絡する場合を考えてみましょう。管理センター所員がほかのことに追われて電話を取れなかったり、話し中だったり、回線混雑で通じなかったり……。ひかり電話など停電中に使えない場合もあるでしょう。
別の例として、床上浸水や延焼の恐れがある居住者は、避難中にどうやって対策本部と連絡を取るのでしょうか? 一斉放送が使えたとしても住戸外では聞こえないので、別の連絡方法を考えなければならないでしょう。
このように、まずは普段から住居内のリスクを減らしたり、消火器の有効期限を確かめ、操作を体験しておく。いざ大地震が発生したら、なによりも近隣住民でお互いの無事を確認しあい、助け合って行動することが基本になるでしょう。
今回の「第一編 全居住者向け」はそのためのガイドラインと考えてください。
6.在宅避難生活と排水管問題(マニュアルp.6, 8, 10, 19~20)
在宅避難生活でまず思い浮かぶのは停電と断水です。エレベータが止まった高層階への水の運搬は高齢者でなくとも大変な問題です。
ところがもっと深刻なのは、4.に述べたように排水管が損傷した場合、若しくは「排水管が大丈夫なことが確認されるまで排水できない」という問題です。
水洗トイレ、洗濯、風呂、食器洗い、洗顔・歯磨き、カップ麺の残ったスープをシンクに捨てることすらできないという生活を想像できますか?
震災後、専門家が出払っている状況で、自分たちで損傷の有無を確認できないか、また、確認できるまでの間水を使わない生活方法、やむを得ず生じた排水を処理する方法などの検討が今後必要です。
7.対策本部メンバー向けマニュアルの作成に向けて(マニュアルp.41~59)
今回の改正は全居住者向けが中心です。今後、自力では避難・情報収集が出来ない方(避難行動要支援者)、その他災害発生時に何らかの配慮が必要な高齢者、障害者、難病患者、乳幼児、妊産婦、外国人などの方々(要配慮者)へのサポート、長期化する避難生活の維持のために必要な方策を具体化していくことになります。
対策本部は管理組合と自治会がトップダウン的に体制を作れるとは限りません。津波で中央監視放送機能が失われる万一の事態に備えるなら、居住者がそれぞれ家族の身の安全を確保し、情報収集し、近隣の安否を確認し合い、階段ごとに協力関係を作っていくボトムアップ的な体制こそが現実的かもしれません。
だとすると、平常時において在宅避難時に必要な行動の訓練、事前のリスク低減策や備蓄についてのセミナー、要配慮者・避難行動要支援者の把握、震災時に必要となる専門家の把握などを企画し実施することがますます重要になってくると思われます。